安心社会の崩壊 〜山岸俊男さんのご本から 2

 筆者は、現在の国民が感じている「日本型システム」への不信の拡大を、これまでの安定した社会関係のあり方が崩れつつあることの1つの表れであると考えています。
 これまでの日本社会では、企業のなかでは終身雇用制と年功序列制を軸にした安定した雇用関係が存在し、また企業間にも比較的安定した系列取引の関係が存在していました。 また日常生活においても、低い離婚率に代表されるように、人々の間で安定した関係が一般的に存在していました。そしてわれわれには、それらの安定した社会関係のなかで安定した生活が保証されていました。
 しかし、グローバル・スタンダードのもとでの競争にさらされはじめたわれわれは、もうこれまでのように、安定した社会関係が提供する集団主義の温もりの中で安心して暮らし続けることはできなくなるでしょう。
 この意味で、現在の日本社会が直面している問題は、安定した社会関係の脆弱化が生み出す「安心」の崩壊の問題であって、欧米の社会が直面している「信頼」の崩壊の問題とは本質的に異なった問題だと筆者は考えています。筆者は信頼を、集団主義の温もりのなかから飛び出した「個人」にとっての問題であると考えており、したがって集団主義社会の終焉が生み出す問題は安心の崩壊の問題であると同時に、集団の絆から飛び出した「個人」の間でいかにして信頼を生産するかという問題だと考えています

にほんのちかくへんどう なんですね
安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)