企業革新方式としてのかんばん 〜柴田昌治さんのご本から 5

 新しいシステムをつくり出そうという思いで、大野氏が目標やアイデアを考えるときに参考にしたのが自然のシステムである。なかでも一番手近にあって見事な生命システムが「人間」そのものである。 大野氏が着眼したのは人間のシステムの「制御系」である。当時の認識レベルではこれは2つの独立した制御系でできていると考えた。

1)「大脳系」で環境変化の情報を処理し、いかに対応すべきかを考えて、   適当な行動の指令を出す
2)「自律神経系」で刻々と変化する環境に対して即時に自動的に反応する
3)「細胞系」で個々の臓器が移植されても生き続けているように、細胞は   独立して自らを制御している

 この3つの制御系は「大脳系」を上位、「細胞系」を下位とするが、上位の制御系が機能しなくなっても下位の制御系が機能していればシステム(生命)は生き続けるという法則がある。逆に、下位の制御系が機能しなくなれば、上位の制御系が機能していてもシステムは死んでしまう。だから脳死状態でも植物人間として活かし続けることはできる。
 情報系としてとらえると、大脳系はデータに基づいて(フィードバック系で)「考える」。自律神経系は発生した場面を押さえた情報(フィードフォワード系)に反応する。細胞系は異常を「感じる」ことで「自律的に」行動する。 体温が高くなれば「自動的に反応」して汗をかいて体温を下げる。体温が何度に下がったからこれだけの汗をかけと大脳系が考えてから指示を出していたのでは、刻々と変化している体温の制御は間に合わない。これは自律神経系でなければできない機能である。 ある大脳生理学の本によれば、細胞系は「たくましく」生き、自律神経系は「うまく」生き、大脳系は「よく」生きるために機能していると言う。

 ここで生産システムを③の企業という大きさで捉えて、人間のシステムと比べて考えてみる。企業環境を取り巻く情報は、予測可能な大きな市場動向のトレンドから現場レベルの刻々変化する場面情報まで多種多様にある。フォード方式は、大脳に相当する本社部門を中心とする管理系統が工場迄を統制し、工場における「管理部門」が「指示・命令」によって生産をコントロールするやり方である。組織構造においてもピラミッド型となり、情報の流れ方は上位下達が基本になる。
 しかし、大野氏は「本来、生き物としての生産システムは自律神経系で異常発生にすばやく反応して制御されるべきであるのに、その自律神経系が企業に欠けているために、やむをえず反応の遅い大脳系の管理部門が制御している」と考えた。こうして「生産管理部門をなくせ」という大野氏のコンセプトが出てくると同時に、「生産活動のなかに自律神経系を組み込め」というアイデアが生まれた。本社部門は戦略立案等の本来の「大脳」としての機能に特化すればよい

たくましく、うまく、よく生きるために
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