ヘッドライト型知性 〜山岸俊男さんのご本から 5

 このように、人間性検知という言葉は誤解を招く恐れがあるので、これからは、相手の立場に身を置いて相手の行動を推測する能力を核とする社会的知性を、ヘッドライト型社会的知性ないしヘッドライト型知性と呼ぶことにします。
 ヘッドライト型知性という言葉は、夜中に地図のない土地をドライブしなければならない状況で、社会的知性が人々の行く手を照らす明かりを提供するという点を強調するため、筆者が作った言葉です。社会的世界をナビゲートしなければならないとき、しっかりした地図があれば道に迷ったり泥沼に落ち込んだりしなくてすみます。地図型知性に長けた人は、自分の身のまわりの人間関係について詳細な地図を持っています。そしてそのことによって、社会的環境への適応が効率的に行なわれます。しかし地図に頼ってナビゲートできるのは、地図が存在している範囲に限られます。限られた数の人たちとの間に長期的な関係が存在している場合には、その範囲内ではより詳細な社会的地図を作成している人のほうが、荒っぽい地図しか持っていない人たちよりも適切な行動をとることができるでしょう。しかし地図にない社会的世界に出掛けなくてはならなくなったときにはお手上げです。
 ヘッドライト型知性が必要になるのは、こういった、地図の範囲を超えて社会的世界をナビゲートする場面においてです。具体的には、行動の外的拘束が小さな場面で相手の行動を予測する場合が、社会的地図の範囲を越えた暗闇をナビゲートする場面に相当します。そのときにヘッドライト型知性をもっていれば、自分の行く先を照らすことができ、思わぬ落とし穴にはまったりする危険を避けることができます。つまり、ヘッドライト型知性の特徴はその携帯性ーどこに行っても使うことができるという点ーにあります。これに対して地図作成型知性は、限られた社会的世界のなかでしか役に立ちません。ただしその範囲では、きわめて効果的だと考えられます

でんちはかいおきしました!
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