情報の感触、情報の気配 〜渡辺保史さんのご本から 4

 石井さんがこのプロジェクトを始めるにあたって念頭に置いていたのは、子どもの頃に出会った「そろばん」だという。以前行なった電子メールでのインタビューで、石井さんは次のように語っていた。
 そろばんは、情報を物理的に表現することによって、それを直接操作できるインターフェイスを持っており、私はそこに未来を見ました。しかも、そろばんは、トニー谷がやってみせたように楽器にもなるし、子どもの空想の世界では電車にも、そして孫の手にもなる。こうしたシンプルな構造の「モノ」が、デジタルの世界と人間とのインターフェイスの未来形だと感じたんです。情報表現と制御(出力と入力)の間にある人為的な境界を取り除くこと、それが研究の鍵です。モノがもっている性質を、デジタルの世界にも連続的に拡張したい、コンピュータを使う以前からの物理世界とのインタラクションを通して、人々が培った理解とスキルを、デジタル世界とのインタラクションにも、自然に適用できるようにしたいというのが、私の夢です。
 1996年からスタートしたタンジブル・ビットの研究は、これまでにたくさんのユニークなコンセプト・モデルを試作してきた。研究のポイントとしては、2つの方向性がある。1つはデジタル情報をあたかも手で触れて操作できるかのような、「感触」のあるインターフェイスを実現すること。もう1つは、人間が環境全体から無意識に受け取っている「気配」のような感覚のなかにデジタル情報を織り込ませることである

ひとさまのどうぐ、にしんかですね
情報デザイン入門―インターネット時代の表現術 (平凡社新書)