見えない空間の地図を描く 〜渡辺保史さんのご本から 3

 交通手段のもつ速度によって歪められた日本。もちろん、初めてこの「時間軸変形地図」を見た時にそんなイメージを十分に理解したとは思えない。けれども、小学生の私は、それまで知っていた自分の住んでいる街や日本、世界といった現実にある場所を紙の上に「そのまま」移し替えるのが地図なのではなく、目に見えないもの、普段は感じとれないものさえも「かたち」に表わすことができる手段なのだということを、おそらく直感的に感じとった。それ以来、私はますます地図が好きになった。
 時間軸変形地図は杉浦さんが1970年代初めに手掛けたものだが、現在でもなお、情報デザインの最もすぐれた事例のひとつとして数えられる。情報デザインにとって、地図という表現形態は最も重要だ。現実にあるモノ・コトを単にリアルに再現するのではなく、その中に含まれるモノ・コト同士の「関係」を明らかにし、その関係をよりわかりやすい「かたち」に変換する情報デザインの強力な武器、それが地図なのだ。杉浦さんの仕事は、そのことを端的に物語っているといえるだろう。第1章で取り上げたリチャード・ワーマンも、こう語っている。
 『地図は全体における現在の位置を指ししめして大きな安心感を提供し、また他人と認識を共有する手立てを与えてくれる。地図は単なる図形の描写だけでなく、無限の表現』方法に通じる。例えばローンの申請書は願望を実現させるルートをしめした地図であり、買い物メモは食料品店へ出掛ける際の地図だ。グラフやチャートも地図のバリエーションであり、さまざまな出来事をアイデアたっぷりの地図に翻訳することも興味深い(デザイン雑誌AXIS第41号に寄せたコメント)』

ごえんもきっとそのひとつですね
情報デザイン入門―インターネット時代の表現術 (平凡社新書)