モラルは進化するか 〜フランス・ドゥ・ヴァールさんのご本から

 シートンをはじめとする作家たちは、理想と見なすに値する「正常で自然な」状態を、生物学者に指摘してもらいたいと考えているのだろう。だが、自然から倫理規範を引出そうとするのは、とても危険なことだ。生物学者は物事の成立ちを説明したり、場合によっては人間の性質を詳しく分析するかもしれないが、行動の典型的な形や頻度(「正常」かどうかを統計的な意味で判断する)と、行動の評価(道徳的な判断)のあいだには、確かな関連性などないのである。
 ローレンツでさえ、カモのつがいが死ぬまで貞節を貫くものではないことを知り、失望したときに混同のわなに陥りそうになった。だがローレンツは、お気に入りの動物であるカモの「欠点」と同時に、弟子のひとりが「何を期待してたんです?カモにも人間くさいところがあるっていうだけじゃないですか!」と言ったことも記して、読者をにやりとさせるに留まった。
 自然から何らかの規範を引き出そうとする試みは、「自然史的誤信」と呼ばれており、いまにはじまった話ではない。

超びみょー ..
利己的なサル、他人を思いやるサル―モラルはなぜ生まれたのか